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一年前の今ぐらいは、洞爺の作品の仕上げの追い込み制作をしていた。

(納品の後に書こうと思ってたこととかずっと書かないままで一年くらい経ってしまった... )


昨年、洞爺に新しく出来たホテルに作品を納品させて頂きました。

制作の話をもらった時にまず頭に浮かんだのは、昭和新山だった。

まるで大きな獣が大地に顔を埋めるように座っていて、山はその者の躰で、

立ち昇る噴気はまさに呼気のように思えた。

鼓動までも聴こえてきそうなその山に魅了されて

大きい方の作品には、昭和新山のあの大きな気配を描きたい、すぐにそう思った。

そこまでの物語は自分の中にあったのだけど、残りの物語りがなかなか見えてこなかった。

描き進めながら何か違うなぁ...と頭を抱えていた時に思い出したことがあった。


5年くらい前だろうか。まだ雪が残っていた時期だった。3月くらいかな。

友人と車で洞爺に行ったことがあった。

地図は見ずにふらふら〜と気になった道を進んで行った時、

梅の木が並び、洞爺湖が眼下に広がる場所に辿り着いた。

車を道の端に停めて、降りて少しその傍を歩いてみることにした。

そうしてると、その梅の木の前に建っていた家からおばあちゃんが出てきて、

こちらを見てる風だったので、挨拶をして少しお話しさせてもらった。


友人とおばあちゃんと3人で洞爺湖を見ながら話しをしたんだけど、

そのおばあちゃんが教えてくれた話しで、

「満月の夜になると、洞爺湖の中島から鹿が渡ってくる」って話をしてくれた。

「熊とかも、渡ったりするんですかね?」って聞くと、

「渡ると思う。」っておばあちゃんが話してくれた。


その話しを思い出して、

そこから一気に作品の全体像が見えて手が動くようになった。


満月の夜に、湖面の波は月の光で金色に輝いて、

その湖面の上を、鹿や熊、そして狼たちも歩いてゆく。

そんな景色が見えた。


静と動を繰り返し、

その主がまたその赤土の身体を起こして起き上がる時を

見守ってきた、そこに生きる生きものや気配たち。


満月の夜に湖は時を捻らせて、かつてそこにいた生き物たちをも蘇らせ、

彼らは湖面の上で舞うように渡るんじゃないか、と。




帰り際、一緒に写真を撮らせてもらうと、

おばあちゃんが自分で手作りしてるという梅干しをくれました。

短い時間だったけど、あの時おばあちゃんと出会えて聞いた話が、

数年後に自分が創る作品の物語りになった。


出来事は、数年後とか、その先に繋がっているんだなぁ。


昨年の制作の時に取材であらためて洞爺を訪れた際に、

あの梅のおばあちゃんに会いに行ってみようか、となって、

この道だよなぁ。。。ってうろうろ走ってみたんだけど

結局あの場所には辿り着くことができなかった。


こんな風にその土地に住む人のその土地に伝わる話を、

聞けたりするのは、とてもおもしろいなって思った。


もしまたいつか梅のおばあちゃんに会えたら、作品が出来たお礼を伝えれると、いいのだけど。





写真はおばあちゃんと出会った場所とはまた違うところ。






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