父が森に作った美術館の話しだ。
美術館と言っても、友人から紹介してもらった山の一部のスペースであって、
そこに私や姉の作品を飾っている、家族や知人だけが知ってる、
手作りの、小さな森の美術館。父の名から「ひろし 森の美術館」という名がついている。
「ひろし〝の〟」の、のは付かない。そこはこだわりがあるらしい。笑
本人曰く、「ひろし〝の〟森って言ったら、自分の森みたくなってしまうだろう。」と。
私有地と言っても、あくまでも表面上で、山は、森は、自分のものではない、
山は自然のものだ、多分、父はそう思ってるんだと思う。
そんな父が、その森に入りだした頃の話しだ。
森に入ると、いつも何かに、見張られてる視線を感じていたそうだ。
多分、その場の主や、精霊や、そう言ったものだろう。その森の番人のような存在の。
だから父は、
森に入る時は挨拶をし、帰る時もまた、挨拶をして帰る、
それを繰り返したそうだ。
ここに入らせてもらいます、お辞儀をして、
今日も入らせてもらってありがとうございました、と頭を下げ。
きっとそんな風に、森に敬意を込めて。
それを日々繰り返し、どれくらい経っただろうかというようなある日に、
ふっと、その見張られるような視線が消えた時があったそうだ。
その森に入ることを、許してもらえた、そういう合図のように。
だけど、その時期くらいから、一羽のカラスが父の森に来るようになったそうだ。
父は、カー助と呼んでいて、よく会話をする友達らしい。
でも、父は、
「カー助はな、友達だけど、きっと見張ってもいるんだと思うぞ。」と。
その場、その土地を鎮守するような存在はいて、
山そのものかもしれないし、精霊のようにその場を護ってるものかもしれないし、
とにかく、そういう存在のことをあらためて思った。
この父から聞いた森の話を、
この作品の制作中よく思い出していた。